バスの中で

 貸し切りバスによる団体の場合、一日のほとんどをバスの中で暮らすこともあるのだから、バスの中を、どの様にして楽しく有意義に過ごすかということが、バス巡拝での大事な点となる。
 宿所を出発すると、まず、朝の第一課として、先達が仏性偈の一つを斉唱し、一同静かに聞くこと。終われば、修行和讃、大師宝号、回向の文で朝の勤行は終わる。

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霊場までの道

 巡拝中は、皆一心一体である。足の速い人も遅い人も、一つにならなくてはならない。いくら早く行っても、最後の人が揃うまで、バスは出発できないのだから、必ず揃ってお参りしたい。そして一人の先導で、

「ナーム、ダイシ、ヘンジョウコンゴウー」

と、頭をとり、一同声を合わせて復唱する。

 先達は、時に応じて文句を変えると、気分が変わって元気がわく。

「朝から晩まで、ヘンジョウーコンゴー」
「足並みそろえて、ヘンジョウーコンゴー」
「声を合わせて遍照金剛」
「お大師様には光明真言」

などである。坂道で足下ばかりに気が取られているときなど、

「海がきれいだ、遍照金剛」

などと、途中の風景などを知らせたりすると、共感がわく。また、

「もうあと五丁だ、遍照金剛」
「ガンバレガンバレ遍照金剛」
「お寺が見えたぞ、遍照金剛」

などと、道標を知らせたり、ユーモアを交えるのは非常によいが、下品になったり、せっかくの信仰的雰囲気を損ねたりしないよう、あくまで「南無大師遍照金剛」を中心に唱えることである。

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ぜんのつな

 団体の責任者は、是非、携帯マイクと、ぜんのつなを用意してほしい。ぜんのつなは、元気な人が先頭で引く。実際には、先頭の人は力を入れずに持っているだけで、不思議と綱は進むものである。たれが力を入れるともなく、引き上げる力となっているもので、足の最も弱い人は最後に体をくくっておくと、のけぞっていても進めるくらいである。
 こうして遍路は、大師の見えぬ力を、ぜんのつなの力と、唱名の声によって自然に引き上げられ、足の弱い人も、自分で驚くほど楽々とお参りができる。
 急な坂道や石段では「ナーム ダイシ ヘンジョーコンゴー」ではテンポが速いので「ロッコンショウジョー 六根清浄」の方がゆっくりしてよい。

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霊場での勤行

 霊場へ着けば、まず本堂へ進む(大師堂の方が立派な寺もあり、本堂と間違うこともあるので確かめてほしい。大師堂は宝形造りになっているのが普通)。
 本堂では、階段を左から上がって納め札を納め、浄財を投じ、灯明、線香などを供え終わると、右から下る。本堂前の板場は狭いところが多いので右からも左からもあがっていくと混雑する。仏法では右回りを尊敬のしるしとするので、左から右へと回ることに決めていただきたい。
 こうして、階段の下で揃って、

開経の偈、般若心経、御本尊詠歌、御本尊真言

と唱える。終われば、大師堂へ進む。
 大師堂では、四国開祖弘法大師御詠歌をあげ、大師宝号を唱え終わると、しばらく瞑黙し、各自の願いと感謝の言葉をはっきりと念中に浮かべる。そして、回向の文を揃って唱え勤行を終わる

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遍路の心構え

 バスの中の朝の勤行が終わると、先達や坊さんがいれば、法話をしていただく。いなければ、同行の中で、二人か三人に信仰の体験談をしてもらう。話の中でも、特に知らせたい名所旧跡があると、あらかじめガイドさんは了解を得ておいて、マイクを受け取ることも必要だろう。聞くことばかりというのも退屈するので、時にはみんなと歌い、ときにはマイクを客席に回すのも大切なことである。
 遍路はなんといっても同行二人である。先達さんの言われることはお大師様の言われること。なにを言われても「ハイ」と、大きい声で返事をする。みんなの言われることもお大師様の言葉で「ハイ」。まず、道中第一番に、みんなでこの「ハイ」の練習をしたい。
 どんなことも、お大師さまのお導き。道に迷っても、時間が遅くなっても、雨が降っても、晴れても、食事がまずくても、ねどこが悪くても、何でもかんでも「ありがとうございます」と、口に出して言ってほしい。
 巡拝にあたって、願いをはっきり持つこと。禁酒できますように。健康にしてください。いい人にしてください。悟りを開かせてください、など、まず一つを、しっかりと胸に期しておくこと。そして、その願いが叶うように、自分も努めること。必ず、巡拝が終わるまでには、何らかの糸口、きざしがつかめていることだろう。
 巡拝を終わって家に帰ると。巡拝中に巡拝中に稽古したことを実習する場である。「ハイ」「ありがとうございます。」をもって帰り、躊躇せずに実行してこそ、巡拝の効果があるというのもである。
 巡拝の感激を忘れず、友達にこの巡拝をすすめることも、何よりの報謝となるだろう。

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巡拝の身構え

 「信仰は荘厳から」「気構えは身構えから」という。遍路には遍路の身構えがある。
 金剛杖-お大師様と頼り、宿につけば、まず、お大師さまの足を洗うものとして杖を洗う。そして、床の間にまつる。巡拝中はなるだけ放さずに、近いお寺であっても持って回る。十夜ヶ橋の故事により、橋の上ではつかない。
 納め札、納めばさみ、三衣、わげさ、数珠などは、ご承知のとおり。
 振り鈴-いいものだが、持つ人が少なくなった。仲間が遠くに離れていても、まず、振り鈴の音で近づくのがわかる。団体の全員がつけてチリンチリンと響くさまは、よいものである。ぜひ持ちたいものだ。
 足ながぞうり-同行二人といわれるお大師さまのために、ぞうりを用意するわけだ。小さいぞうりで、札ばさみの紐が首の後ろに回るあたりにつけておく。これを着けておくと、足の運びが軽くて、長くなるというので、この名前がある。
 地図・案内図-せっかくお参りしても、何番で何というお寺や知らずにいる人も多い。必ず地図と案内書一冊くらいは持っていて、いまはどこへお参りしていると、確かめたいものだし、帰っても思い出のよすがとなる。

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(海岸寺発行「四国巡拝のしおり」より)


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